中川木工芸 比良工房中川周士さんを訪ねて
普段親しくさせていただいている83歳の林建住宅株式会社の林会長と、造園業のイングリーン代表の松田さんたちをお誘いし、滋賀県大津市にある中川木工芸 比良工房に中川周士さんを訪問しました。
先日 初めて中川周士さんの作品を目にする機会があり、神代杉※を使用して作られたシャンパンクーラーに魅せられたことがきっかけです。
一番人気の下の写真の楕円のシャンパンクーラーは、何枚かの板をアーチ工法の技術を使って繋げて制作されていて、角度を合わせていくのが難しいそうです。角が沿っているから手にフィットして持った時に滑りません。
一日に制作できる数は1つで、現在ご注文いただいたお客様には4~5か月待っていただいていると言われていました。
中川周士さんは中川木工芸の三代目で、元々現代アートの作家さんとしてもご活躍されていたそうです。
そのためにデザイン的な美しさを大切にされていると思います。
お父様の二代目、中川清司氏が人間国宝になられたことを契機に、お父様の作品とご自分の作品を区別するために、滋賀県滋賀郡志賀町(現 大津市)に移られ2003年工房を開かれたそうです。
父親の威光にあやからず、独立して自分の世界を切り開かれた周士氏。
ところが、60~70年前は京都に桶屋が250軒あったのに、今では3軒しか残っていないそうです。
「昔は人は誕生と共に桶で産湯につかり、亡くなると木製の棺桶で土葬されていました。人々の日々の生活に幾つもの木桶が使われていました。しかし、プラスチックなどの安価な工業製品が普及して、急速に姿を消してしまったのです。」と話されました。なんとか木桶の良さを知ってもらいたいという熱い思いをもった中川周士さん。
もともと桶は世界中にあり、例えばドイツではビールの乾杯には樽の木で作ったジョッキが使われていたそうですが、
世界の中でも日本の職人の技は秀逸で、海外のデザイナーたちは、そうした日本の職人の技に注目しているそうです。
日本の伝統工芸の将来をかけて、京都において伝統工芸の継承を担う京都の各分野の6人(中川木工芸、開化堂、細尾、金網つじ、公長齋 小菅、朝日焼)が集まりました。
2012年 政府の支援を受けてGO ONというグループを作り、若者が目指してくれるようなカッコいい伝統工芸士として、世界に日本の伝統工芸を発信しようと活動開始。
(その結果、現在では日本の伝統工芸品は世界の最も有名なデザインフェアーに出展され、ギャラリーや有名ブランドとのコラボレーションに繋がっているそうです。)
GO ONの活動の一環として、中川周士さんは伝統的なおひつ、寿司桶などを制作するのみならず、デンマークのデザイナーとコラボ。
デザイン性を大切にした革新的な作品にも挑戦されています。
「なぜ、デンマークのデザイナーさんを選ばれたのですか?」と私が尋ねたら、
「デンマークを含めて北欧は日本人と感覚がちょっと似ていると思います。ご縁があったデザイナーさんが愛読書に谷崎潤一郎の小説を挙げられたので、それなら大丈夫だろうと思いました」と中川さんは答えてくださりました。
いろいろとお話を聞かせてくださった後で、工房見学もさせてくださりました。
様々なカンナがたくさん並んでいます。
作る作品の数だけ、カンナがあるのかもしれません。
実にたくさんの道具です。分類、整理も大変そう。
工房には京都の伝統工芸の専門学校を出た若者や女性たちも受け入れていらっしゃります。
彼らがきっと次世代の継承者たちとなってくれるでしょう。
工房から生み出される素敵な作品の数々。
下の写真は焼き杉で作られた酒器です。焼き杉は防水性が高いのだそうです。
下の写真はスツール。デンマークのデザインスタジオ「OeO 」トーマス リッケとのコラボレーション ブランド”Japan Handmade”からこのKI-OKE Stool は生まれたそうで、現在海外の美術館にも収められているそうです。
ワインクーラーもいろいろなデザインを作られています。
木のワインクーラーは水滴がつかないことが利点だそうですが、
それって、とっても嬉しいこと!
どんどんと新しいこと、依頼が来た仕事をされて、自分の世界、活躍の場を広げられている中川周士さん。
益々のご活躍を楽しみにしております。
欲しいなあ、神代杉を使ったワインクーラー (^^)
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追伸:
中川さんのお話が収録されているサイトがありましたので、リンクを貼り、サイトの中で印象に残った言葉をここに添えておきます。実に素敵な方です。
「言葉は便利です。この世界は言葉によってほとんどのことを言い表すことができます。でも全てではありません。言葉では言い表せないことがある。だから私はものを作ります。しかし今職人の減少とともに、大切なものが失われつつあります。
職人の手によって語られてきた技術や哲学、精神といったものです。それを手で、あるいは言葉に置き換え、次の世代へ受け継いでいくことが必要だと考えます。以上です。」
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※神代杉とは、長い間水中や土中に埋もれていた、大昔の杉で、噴火や地震による土石流やなだれによって、地中深くに何千年もの間埋まっていたものが、土地開発等により掘り起こされて発見されたものです。
長い間火山灰を多く含む地中に埋まっていたために、暗灰色または淡黒色になるものです。
三瓶小豆原埋没林公園
(島根県大田市)では、縄文時代の杉の森が地中に埋もれ、生きていた時のまま根を張り、さらに長い幹を残したまま直立している姿を見ることができるそうです。